今週のAERAにも載っていた『上司は思いつきでものを言う』を読みました。タイトルがサラリーマンの共感を呼んでいるらしく、結構売れてるみたいです。Amazon 売り上げランキングで現在 72 位、大阪の新書コーナーでは平積みでコーナーを占拠していました。
内容の方は、現場の優秀な社員が業績回復の一手を投じる建設的な企画を提出すると、上司は決まって「思いつき」で物を言ってしまう、その原因は現場と会社の乖離にあるというもの。
上司が思いつきで物を言うパターンはいくつかあって、
「現場上がりの上司が、自分は現場を離れたにもかかわらず、自分も現場にいるような錯覚を起こしてしまう。結果、部下の企画にたいしてついつい余計な提案をしてしまう。」
あるいは、
「現場が嫌いな上司は「部下は無能だ」と決め付けてしまうが故、その部下が優秀な企画を持ってくると嫉妬を感じてしまう。結果、素直にそれを認められずにアラ探しをしてしまいテキトーなことを言ってしまう。」
などなど。
会社においては上司もまた部下であるという上司の階層構造もあって、本書ではそれを上司のピラミッド、と呼んでいます。上司のピラミッドは会社が大きくなるにつれ一緒に大きくなっていくのは自然のことですが、そのピラミッドが大きくなればなるほど、上層部と現場との乖離が進みます。
会社というのは利潤を追求するのが目的の組織であり、大きくなることを使命としている。会社には"大きくなる"という動機に歯止めをかけるものがない。ゆえに会社が大きくなる → 上司のピラミッドが大きくなる → 現場との乖離が進む → 思いつきがまかり通る...これが著者の橋本治氏の持論のようです。すなわち、上司の頭がいいから悪いからとか、現場の社員が優秀だからバカだからということが根本の原因ではなく、会社という組織の構造がその原因であると説いています。
とまあ、ここまでは至極納得。で、橋本氏の説く上司に思いつきで物を言わせない方法はなんだろうと思って読んでいくと...「えーー!?」と"あきれなさい" とのことです...オイオイ。氏曰く、"上司は思いつきで言ったことを批判された経験がないから思いつきでものを言ってしまうのである" というのです。う、うーむ。そんな単純なものなのでしょうか。組織の構造に問題があるというのに、「えー」とあきれるのがその解決方法。Simple Enough ということなのか。
とまあこんな感じで前半はなかなか面白く読んでたのですが、後半は「あきれなさい」に始まり戦国時代の話だとか、儒教に民主主義、官僚がどうしたとかなんとかで、ちょっとオヤジくさい話になってしまって、やや残念でした。
...もしや、この本自体が思いつき?
でもま、結構いいことも書いてます。心に残った一説を忘れないようにここにメモっておくとします。
二十世紀まで、「現場」は必要によって生まれ、作られた。二十一世紀の「現場」は、観念によって作られる。二十一世紀の経済がいたって危うい基盤の上に乗っかっているということだけは、間違いありません。P.122 第三章 "「下から上へ」がない組織"より
そういう意味では IT 産業なんかは、観念によって作られた以外の何者でもない気もしますね。が、それが危うい基盤の上に乗っかっているかというネガティブな問題は、「もしそれが今なくなったら?」と考えるといいかもしれません。(知人の受け売りですが。) インターネットがない時代へ戻りたいか? というと戻りたくないですしね。
果たして、「正しい上司と愚かな部下」という組み合わせはあるでしょうか?
「そりゃあるさ、大いにあるさ」と言いたい方はいくらでもあるでしょう。しかし、これは間違いです。どうしてかと言うと、部下を愚かなままにしておく上司は「いい上司」でも「正しい上司」でも「賢く正しい上司」でもないからです。部下の愚かを野放しにしておくのは、「愚かな上司」です。P.156 第四章 "「上司で何が悪い」とお思いのあなたへ"より
確かに、納得。自分が上司になったときに忘れないようにしたい点です。
「まともなのに突っ返された」― 戻された企画書を読み直して、あなたはそう思いました。それだけの知性があなたにあるとします。だとしたら、その企画書が突っ返された原因は、上司の頭が古くて悪いからでしょうか?
そうかもしれません。その可能性はあるのかもしれませんが、それを考えてもしかたがありません。「よく分からん」と言われて突っ返されたのなら、その責任はあなたにあるのです。どうしてかというと、あなたの書いた企画書には、読み手である上司に「分かった」とか「なるほど」と言わせるだけの説得力 ― あえて言ってしまえば、「親切心」がないからです。
第一章でも言いましたが、企画書の正解 ― つまり「企画書に書かれるべき内容」を知っているのは、それを提出するあなたなのです。上司ではありません。提出する部下が知っていて、提出される上司は知らない ― その点で企画書は、学生が提出して教官がつけるレポートの類とは違うのです。P.162 第四章 "「上司で何が悪い」とお思いのあなたへ"より
『7つの習慣』に、命令ばかりしている社長の命令を唯一"主体的に理解する"ことに努めた部下がその後社長に信頼され会社を変えていくというストーリーが記されていますが、それに共通するものがあります。責任転嫁は何も生まないので、主体的に。
あなたは、「上司」というものを特別な存在だと思っています。「自分の上にいて、給料も多くもらっているんだから、こっちの言うことを理解出来てもいいだろう」― などと。そう思って、あてがはずれると、「バカじゃねェの」で「頭が古い」です。だから、「どうせあいつには分からないだろう」とか、「上司なんだからこれくらいのことは分かれ」と思いながら、その上司が「よう分からん」というような企画書を書くのです。
あなたは、そのように上司を「特別の存在」と思っているのです。
「上司はえらくて部下はえらくない」という考え方は、もっぱら上司側のするものだと思われていますが、そんなことはありません。部下の側だって、「上司はえらくて、部下の自分はえらくない」と考えています。それで、上司を拒絶したり、よっかかったりしているのです。だから、「上司に分かるように書く ― 上司だってバカかもしれないのだから」という、いたって簡単なことが呑み込めないのです。P.170 第四章 "「上司で何が悪い」とお思いのあなたへ"より
知らず知らずのうちに「上司は上司であるがゆえに偉い」という考えが染み付いてしまい、ゆえに「特別な存在」であると思い込んでしまうと。これはなんだか、頭で分かっていても言われてみるとハッとしますね。
ということで、『上司は思いつきで物を言う』、(後半はともかく) 核論は結構いいとこ突いてる本で、安いし薄いので一読してみるのもいいと思います。