スタンフォード大学 社会学部教授の Mark Granovetter = マーク・グラノヴェッター が 1972 年に『American Journal of Sociology』に投稿した「The Strength of Weak Ties (弱い絆の強み)」という論文があります。過去に何度か紹介したおすすめ書籍『新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く』の中でも取り上げられている論文で、曰く"これまでに書かれた社会学論文のうちで最大の影響力をもつとみられている"のだそうです。
さて、この「弱い絆の強み」とは一体何なんでしょうか。『新ネットワーク思考』 P.66 に記述された内容にはこうあります。
彼の論文は、早晩すべての大学院生が感染せずにはいられない問題、すなわち「人はいかにして職を得るのか」という問題を社会学という顕微鏡の下に持ち込むものだった。(中略) 人々はいかにしてネットワークを作り、社会的絆を利用して職を得るのだろうか? 彼はそれを調べるために、何十人もの管理職や専門職の人たちにインタビューをして歩き、今の職を得るために力になってくれたのは誰だったかを訪ねた。今の職を得たのは友達のおかげなのだろうか? 返事はいつも決まっていた。力になってくれたのは親しい友達ではなく、ちょっとした知り合いだというのだ。(中略)
その論文は、人の一生において重大な役割を果たすのは、弱い社会的絆であることを示す重要な内容をもっていた。
社会的絆によって形成される社会ネットワークにおいては、古くからの友人といった、自分にとって強い絆で結ばれている人物よりも、ちょっとした知り合いのような弱い絆で結ばれた人物のほうが、自分の人生に与える影響が大きいという内容です。
なぜそんな結論に達するのか、その答えは簡単に言うとこういうことです。
クラスタとクラスタを結ぶ弱い絆は外の世界との架け橋 (クリックで拡大)
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ごく普通の人には親しい友人がいて、非常に強い絆で結ばれています。この友人の友人もまた、あなたの友人である可能性が高く、結局、親しい友人のネットワークにといては、それら友人たちの殆どは互いに知り合いです。これは非常に高い密度でリンクし合った、いわゆるクラスターです。このクラスターの中にいる人物は、だいたいが自分と同じような境遇の人物であるため、知りうる情報も似たようなものになりがちです。
新しい情報を得るためには、クラスターの外の世界とコミュニケーションを図る必要が出てきます。そして、その外の世界もまたクラスターです。つまり、強い絆で結び合ってできあがった一つ一つのクラスターを結びつけるのが「弱い絆」で、弱い絆を辿ることによって知り合った「単なる知人」は、あなたとは住む世界が違うため、親しい友人とは異なる情報源を持っています。そして、そんな異なった世界の情報こそがあなたの人生を大きく動かす原動力であり、そんな異なる世界の住人こそが、あなたの人生に非常に大きな変化をもたらすのです。
僕もやはり、親しい友人が貴重な情報源であると思い込んでいたのか、この「弱い絆の強み」を知ったときに、ちょっとした興奮を覚えました。そして、それを知って以来、それまでは比較的「深く狭い付き合いをよしとする」みたいなのが自分のモットーだったのですが、方向転換して積極的に弱い絆を辿るように心がけるようになりました。
最近、その成果が少しずつ現れて来ています。一つは先日、翔泳社さんから出るウェブログ本の座談会に参加させてもらえたこと。再来月ぐらいには発売され、そこには僕の名前と顔写真、それから会話の内容が載ることでしょう。この座談会へのお誘いは平田さんを通じてのものでした。
二つ目は、10/18 日開催予定の Shibuya Perl Mongers でのスピーチ。僕のウェブログを見てくれていて、LL Saturday のときに顔合わせした宮川さんのお誘いによるものです。
社会人一年半の若造である僕が、知り合って数ヶ月も経たない知り合いの方々から表舞台に足を踏み出すきっかけを頂いているという現実。多分、会社の中でぼーっと働いているだけでは、絶対にこんなチャンスには巡りあう事はないでしょう。
そして、そういった弱い絆を辿るきっかけになっているのは、ウェブログだったりするのです。ウェブログを始めてからというもの、同じ業界の方とは言えど、知り合いになるきっかけが全くなかったような方々と、たくさん知り合いになることができました。プライベートでも、仕事でも、すごく色々な人と交流する機会が増えました。
これはウェブログの持つ幾つかの側面が効いているのだと思います。エントリを遡っていくことによって書き手のパーソナリティがモロに伝わるという点や、地理的距離をゼロにすることができるインターネットにおいて、書き手同士の、緩く目に見えないコミュニティが形成されていることなどが大きいのではないかと。
弱い絆を辿るには、その弱い絆を辿るためのきっかけが必要で、実はそれを掴み取るのが一番難しいのではないかと思います。そして、きっかけを作り出すのにウェブログは結構良い道具なんじゃないかなあと思わされる今日この頃です。
さて、昨日記述したエントリ 'Powered by MovableType の人気サイトは Google PageRank 5 が多い謎' において、なぜか日本の MT による人気なウェブログは PageRank が 5 ばっかりという話をしたところ、sfこと古谷俊一さんから以下の様なコメントを頂きました。
密結合で対等な相互のリンクを行なっているページ群のページランクは、平準化される傾向が強くなるはずです。 リンクの網の目が密になりやすいWeblogでは、特に強く出てきても不思議は無いと思います。
なるほど。これってまさに、グラノヴェッターの論文に出てくる「強い絆で結ばれたクラスター」そのものですよね。"親しい友人間のネットワークにおいては、友人のまた友人も、そのほとんどが親しい友人である" というのが "ウェブログの(リンクによる)ネットワークにおいては、リンク先のまたリンク先も、そのほとんどが自分のサイトからのリンク先である" と置き換えて読めるでしょう。
従って、古谷さんのおっしゃっているように「密結合で対等な相互のリンクを行なっているページ群のページランクは、平準化される傾向が強くなる」のであれば、それを打開するには弱い絆、つまりウェブログの外の世界からのリンクを獲得するのが効果的なんでしょう。そのとき、弱い絆を辿っていきついた先が、その外の世界におけるハブになっていれば非常に高い効果が得られるのではないでしょうか。
グラノヴェッターが唱えた「弱い絆の強み」、強い絆で結ばれたクラスターから外に出ることが大きな流れを生み出すということ、そのきっかけになる道具としてのウェブログの可能性、それから、そんなウェブログの世界もまた、クラスタ化されているという話などを詰め込んでみました。