エリックは、シリコンバレーのソフト会社のCTOだったことのある友人に、そんなことを、お前たち、やっていた? と尋ねる。答えはノー。そして元CTO氏は正直にこう言う。「そんなことやりたくねぇよなぁ。」人がやりたがらないことをやる、これって商売の基本だよなあと思ったけど、でも実践するとなるとなかなか難しいし、気付かないうちに忘れてる。エリックは、ここに、Intuitと他のソフト会社の差を見るわけだ。普通の人がやりたくないことをやるから成功する、というわけだ。
僕が働く会社はインターネットサービスを提供する事業を行っている。我々はインターネットのユーザーでありながら、サービスを提供する側でなければならない。お客でありながら同時に販売、提供側でもあるという例は商売ではよくあることだとは思うのだが、その土俵がインターネットとなると、その度合いがかなり違ってくるように思う。いまやインターネットは情報収集、情報共有、情報発信の道具として欠かせない道具となった。仕事の面でも、プライベートの面でも日常生活の一部として定着してしまっている。
ただ、そこはユーザーとして見た場合の領域だ。自分たちがこんな道具があったらいいな、こんなことができたらいいなと日ごろ思っていることが反映されるのはこの領域である。そこを自分たちで開拓していかなければいけない。そうなるとどうしても「自分たちがやりたいこと、自分たちが使ってみたいこと」にばかり目が行ってしまう。「自分がやりたいことは、皆もやりたがってるだろう」とか勝手に思い込んでしまうのである。
同じく梅田さんの以前のコラムにこうある。
Geekの多いシリコンバレーでは、世間知らずのGeekたちが考えがちな「自分のために問題解決をすれば、全世界の人がきっと喜んで、カネを出してくれるに違いない」というナイーブなEarly adoptor型創業動機で、スタートアップ企業が作られることが多い。
ドキッっとする一文である。
こうした業界で働いていると、どんなに頭を切り替えようにも、なかなか第三者の立場には戻るのが難しくなってくる。そういうとき、ユーザーからのフィードバックというのは天の声となりうる。面倒くさがってそれをやらないのは、目の前に落ちている宝箱の山を見落とすような行為なのだろう。
梅田さんの今回のコラムでは更にここを推し進めて
「customer-driven innovation」ではなく、あくまでも「technology-driven innovation」を追求し、その前提を崩さないまま「どのようにして顧客から学ぶのか」を考えるべきだ
というあり方を指し示している。確かに単純に「顧客思考」と言ってもつまらない。顧客が求めていることだけを実現していても、新しいことはなかなか生まれない。ユーザーが驚くような新しいものを作り出すためには、オタク的思考も時として必要なのだろう。どちらかに偏りすぎずバランスを取っていくことが大事なんだろう。